目次
はじめに
どうも、かとうです。
今回はブレーキフルードに関してご紹介いたします。
ブレーキフルード、一度も交換したことがないという人もいるのではないでしょうか。
今回の説明を通してブレーキフルードの交換の意義や、交換するときにどのようにブレーキフルードを選んだらよいか情報共有できたらうれしいです。
ブレーキフルードは何でできているのか
ブレーキオイルと呼ばれることもありますが、実際にはオイルではなく、さらさらとした液体です。なのでブレーキオイルと呼ぶよりはブレーキフルードと呼んだほうが実態にあっていると言えます。
ブレーキフルードに使用される液体(作動流体)に要求される性能としては以下のものがあります。
- 粘性が低いこと。粘性の温度依存性が低いこと
- より弱い指の力で強いブレーキ力を生み出すためには粘性が低いことが重要でありますし、フルードが温まったあともタッチが変わらないためには温度によって粘性変化が小さいことが望まれます
- 体積の圧力依存性が低いこと
- ブレーキレバーを握った際の力が極力すべてブレーキ力に変換されるように、圧縮されない流体が理想です。
- 凝固点が低く、沸点が高いこと
- 寒冷地でも凍らない凝固点を持ち、簡単に沸騰しない高い沸点を持つことが求められます。
- シールに対する攻撃性が低いこと
- マスターシリンダーやピストン部のフルードシールを侵さない性質が必要です。
上記性能を満たすために、現在ブレーキフルードとして使用されているものの主成分にはエチレングリコール系のものとシリコーン系のものがあります。ほとんどのバイクではエチレングリコール系のものを使用しています。
かつてのハーレーダビッドソンのバイクがシリコーン系のブレーキフルードを使用していたそうです。
シリコーン系とエチレングリコール系は絶対に混ぜないようにしてください。また、エチレングリコールは塗装を侵す性質があるので、タンクや外装に付着した場合速やかに水で流すようにしてください。
DOT規格
ブレーキフルードの性能の指標としてDOT規格というものがあります。
この章ではDOT規格についてご説明します。
DOT規格とはなにか
DOT規格はブレーキフルードの沸点を規定した規格で、DOTはアメリカ交通省(Department of Transportation)の略です。
この名前からもわかるようにDOT規格はブレーキフルードだけに関する規格ではありません。ブレーキフルードに関する規格以外にもさまざまな規格が存在します。
例えばヘルメットにもDOT規格がありますので、ブレーキフルードのDOT規格は、いくつもあるDOTの規格のうちのひとつにすぎません。
注意しないといけないのは、ブレーキフルードに関するDOT規格はあくまでも「沸点」をもとに規定しているのであるから、制動力について何ら規定するものではないということです。
つまり、「DOT4よりもDOT5.1のブレーキフルードのほうが制動力が高い」なんてことは言えないということです。
そのためで、タイヤなどと違って、高いブレーキフルード(≒高沸点のブレーキフルード )を入れたからと言って、価格だけの違いが分かるかというと難しく、効果のわかりにくいメンテナンスだといえるかもしれません。
DOT規格の内容
以下の通りドライ沸点とウェット沸点で規定されています。
ブレーキフルードは水分が混入することで徐々に沸点が下がります。新品の水分が一切含まれないブレーキフルードは下表のドライ沸点を有していますが、使用しているうちに徐々に水分を含み、ウェット沸点に近づいていきます。
ちなみに、レース用ブレーキフルードにはDOT5.1をはるかに超えたドライ沸点をもつものも存在します。
規格 | 主成分 | ドライ沸点 | ウェット沸点 |
DOT3 | グリコール系 | 205℃以上 | 140℃以上 |
DOT4 | グリコール系 | 230℃以上 | 155℃以上 |
DOT5.1 | グリコール系 | 260℃以上 | 180℃以上 |
DOT5 | シリコーン系 | 260℃以上 | 180℃以上 |
DOT5と5.1の違いは?
さきほどの表で、DOT5とDOT5.1がありますが、5シリコーン系、5.1がグリコール系になっています。
これは、かつてDOT4を超える性能をもつフルードにはシリコーン系しかなかったため、シリコーン系はDOT5で規定されていました。しかしその後DOT5に相当する性能を有したグリコール系のフルードが開発されたため、成分の違うDOT5と混同しないために、5.1という規格があらたに制定されたという経緯があります。
ブレーキフルードの温度が沸点を超えると何が起こるか
ヴェイパーロック現象
バイクの持つ運動エネルギーは制動のたびに熱エネルギーへと変換されます。
熱エネルギーはブレーキパッドの摩材とブレーキディスクの間で発生し、ディスクやパッドを介して最終的には空気中に放熱されますが、ピストンからフルードにも熱伝導します。
そのため、ハードブレーキングを繰り返すと放熱が追い付かず、徐々にフルードの温度が上昇し、沸点を超えると下図のように気泡が発生します。
気泡が発生してしまうと、俗に「エアが咬んだ」という状態と同じになり、ブレーキを握っても気泡を圧縮することに力が逃げてしまい、ピストンを十分押すことができなくなります。
沸点が高いと、当然この気泡も発生しにくくなり、より高温までヴェイパーロック現象を起こさないようになります。
こうしたことから「DOT規格=ヴェイパーロック現象の起こりにくさの指標」と思っても構わないでしょう。
私自身、サーキットでヴェイパーロック現象を起こしたことはありませんが、セローで林道を走っているとき、長い下りの峠を降りているときにリアブレーキが効きにくくなった経験があります。
サーキットを走る人はどんなフルードを選んだらいいのか
サーキットを激しく走る予定の人は、DOT5.1相当以上のブレーキフルードを選んでおくと安心です。
私はワコーズの「SP-R 競技用 ブレーキフルード」を使用しています。これはDOT5.1を超える沸点をもつフルードです。ドライ沸点は323℃とのことです。500mL入りで実売価格¥4,650程度(2022年9月3現在)です。バイクの場合は、前後のブレーキフルードを交換しても、おおよそ半量しか使用しないので、だいたい2,300円で交換できることになります。
このほかはMotulのRBF600というのも。
これもDOT5.1の規定ドライ沸点(260℃)を大幅に上回る、312℃のドライ沸点がありますね。ワコーズのよりちょっと安いっぽい。(500mLで¥2,140、2022年9月3日現在)
私はこちらは使ったことないですが、たぶんヴェイパーロックを起こさない範囲で使う限りでは違いが判らない気がするな…。
ブレーキフルードは吸湿に弱いので、交換後にフルードが残ったときは、缶のキャップをきつく締めて保管するようにしてください。
初めてサーキットを走る人は、走行前には交換すべきかどうか迷うことがあるかもしれません。ご使用中のフルードの沸点が低そうな場合、例えば、これまでDOT4を使用していてしばらく交換していないという人は、サーキット走行前に交換しておくことをおすすめします。
ブレーキフルードはどのくらいの頻度で交換すべきか
車検のタイミングで2年ごとの交換で、問題になることはまずないでしょう。
一方、レース用は公道用のフルードに比べ沸点低下の劣化が早いことが多く、シビアな管理と頻繁な交換が必要になります。私の場合半年~1年に一回の頻度で交換しています。
公道では通常、DOT4などでも沸点を超えるようなことはほとんどなく、レース用フルードはオーバースペックとも言えます。
そのため、公道しか走らないライダーは、レース用ブレーキフルードを入れないということも良い選択肢になるでしょう。
公道用のブレーキフルードとしてはWakosのSP-4がおすすめです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
レース用ブレーキフルードが必ずしも優れているということでないこと、意外かもしれまん。
今回の記事が皆様のブレーキフルード選びの参考になると嬉しいです。
なお、ブレーキフルードの交換は、バイクの最も重要な保安部品を触ることになりますので、自信のない方はかならずバイクショップに依頼するようにしてください。